Monday, April 13, 2020

SEIR モデルで潜伏期間を考慮して計算すると接触率を80%減らすのが必須という結果になる

数日前の計算では、疫学の計算モデルでも最もシンプルな SIR モデル (Susceptible-Infectious-Recovered) を使って計算しました。そのときの主な結果としては、

  1. 今すぐ (4/7の時点) で接触率を 80% 減らすと、陽性患者数を東京都の場合 10,000 人台くらいに抑えられる。
  2. 接触率を 20% 程度減らすだけでは、陽性患者数のピークが先延ばしになるだけで、ピークは 200 万人近くになり解決にならない。
  3. 何も対策をとらないと、300 万人近くが感染する。→ 1 と 3 で 2桁の違う。


COVID-19 は、潜伏期間が長いという特徴があります。WHO によると、潜伏期間 (incubation period) は 1-14 日にわたり、典型的には 5 日としています。
https://www.who.int/news-room/q-a-detail/q-a-coronaviruses

発病しても無症状な人も結構な割合でいるらしく、知らず知らずのうちに感染を広めてしまうパターンもあります。それゆえ、陰性/陽性の検査が早く正しくできるようになるのが、この状況改善の重要なハードルの一つだと思います。少なくとも陽性とわかれば、即座に自己隔離ができる。


SEIR モデル

潜伏期間を含めた計算モデルがあり、SEIR (Susceptible-Exposed-Infectious-Recovered) モデルというのがあります。

計算とグラフに関する備考:

  • 潜伏期間 5 日という要素を加えて計算
  • β (疫病の拡散割合) を調整し直し。
  • γ (回復率、回復期間14日の逆数とした) は同じままにしています。
  • グラフは縦軸を対数表示。
  • 4月初旬の接触率のレベルから OO% 減らしたかにより色分け。
  • 黒い点は、東京都保健局の実測値である。
  • 線は陽性患者数を示していて、回復した人は含まない。東京都のデータは「退院済み」を回復者としてカウント。
縦軸を対数表示にしたので、いろいろなシナリオを一つのグラフで見える様になりました。グラフの上の限界が、10,000,000 人 (10の7乗)、下の限界が 1 人 (10の1乗) という単位です。

グラフからわかる特徴としては:

  1. 接触率を 80% に減らして、やっと陽性患者数が減少する (理由は後述)。
  2. 接触率を 80% 以上にすると、患者数のピークが 8,000 弱で 5 月ごろにやってくる。ただ、アメリカの傾向では SIP 実施後からピークに達するまでに 4週間は経っているので、実際のピークは早くて 5 月の GW 明けくらいではないだろうか? 
  3. 接触率をちょっと減らすだけ (20 - 60%) では、ピークが先延ばしになるだけで、100 万人単位の陽性感染者数を出すことになる。
  4. 接触率を 80% 以上に減らすと、陽性患者数の数が 2 桁は減る。つまり、何もしないときに 100 万人単位なのが、1 万人単位に減る。
  5. 黒い点(東京都の実測値)の傾きが、2 月は急で、3月に変わる頃に一時緩やかになり、3月末からまた急に、加速しているような傾向が見える。


前回の SIR モデルにくらべて、潜伏期間という要素が加わったため、接触率の軽減が 80% でもかなり減少に時間がかかるようになりました。

言い換えると、感染拡大を収束させるには、全人口に占める免疫保持者の割合を高くする必要があります。いま、ワクチンで免疫をつけるのは無理なので、自宅待機などで人と人との接触を減らすしか有効な策がありません。

いま、EU や US などを中心に、「陽性患者数の数はピークに達した/達しつつあり、減少に転じるのが見えてきたが、どうやってロックダウンを解除、緩和するか」が議題になっています。完全に解除すると、3 月中旬の時点に逆戻りするだけで、この数週間の苦労が水の泡になります。どういうプランになるのかとても気になるところです。


ちなみに、こちらは↑の対数表示したものを、通常の線形スケールで表示したものです。あくまでも計算ですが、80%減でもかなり時間がかかる。武漢 (Wuhan) の場合は、紫の100%減に近い方策を取ったのだと理解しています。

このウィルス、感染はしやすく、逆に減少しにくいという特徴があるっぽいのも厄介すぎる。

日本全体の場合

WHO から各国の COVID-19 の統計をダウンロードできます。陽性の確認者数、回復者数、死者数で別けられています。

こちらも同じく対数表示しました。
対数表示にすると、2 月、 3 月ごろの増加の傾向がわかりやすくなり、増加のスピードが遅くなっている期間があります。外出自粛ムードに効果があったのかなぁと思います。


接触率 80% 必須という計算結果になる理由

疫学における感染症の基本再生産数 R0 (basic reproduction number) という数字があります。1 人の感染者が、他の何人に感染させるかを表す数字です。インフルエンザは 2-3 とされ、1 人の感染者から 2-3 人へ感染させてしまうことを意味します。

R0 がわかると、人口の何%が免疫を持っていると、集団免疫 (herd immunity) の状態になり、感染症流行が収束に向かうかを計算できます。この「人口の何%が免疫を持っていると」は、臨界免疫保持率 (?), Pc (the critical proportion of the immune population) というのは、次の式で計算できます。

Pc = 1 - 1 /R0

また、R0 は、R0 = β × γ で計算されます。βは疫病の感染率、γは疫病の回復率です。

COVID-19 の場合、平均 14 日間が回復期間とあるので、γ = 1 / 14 = 0.071 と固定して計算しています。

これまでの数値計算の結果は次の表になります。

 R0βγ  p_c
 東京  (SEIR モデルの場合) 3.68 0.263 1 / 14   (0.071) 73%
 東京 (SIR モデルの場合)       2.35  0.168 1 / 14   (0.071) 57%
 日本 (SEIR モデル) 3.78 0.270  1 / 14   (0.071) 74 %


今回再計算した東京都の SEIR モデルの場合は、β が大きくなるために R0 が前回の計算よりも上昇し、結果として Pc が 57% から 73% へ上昇しました。

つまり、p_c が意味するのは、全人口の 73% に免疫がつくと、感染者が増えもせず、減りもせずという平衡状態になります。R0 の値が大きいほど、流行を抑制するのが難しくなるとも言えます。上のグラフで、「80%減にした場合」の減少が遅くなったのは、Pc = 73% という結果になったため、効果が薄れたのが理由です。(Pc = 73% でグラフを描くと、線が真横に伸びます。)

Pc を減らすには、R0 を小さくする必要があります。R0 は、R0 = β × γ で計算できます。

つまり、感染を抑えるには、βとγを小さくすればよいのですが、方法としては次の様になります。
  • βを減らす方法: 新たな感染を伝搬を減らす:
    • (1) 自宅待機して人との接触を減らす。
    • (2) ワクチンを摂取する。
    • (3) 防護服を着る。
  • γを減らす方法: γは回復日数に関係するので、
    • (1) 感染者の特定を早く行う。
    • (2) 効果的な治療方法を (発見し) 施して早く治す。

繰り返しになりますが、COVID-19 に対するワクチンはないため、自宅待機をするしか数を減らす方法がありません。

ただ、それでは経済がストップして長期的には基本的生活の維持も難しくなるのは明らかなので、陽性検査を素早く正確に行えるようになること、有効な治療方法を見つけることも同時に必要です。

接触率を80%減らすのが必須というのは、Pc (the critical proportion of the immune population) = 73% となるため、それよりも大きい数にする必要があるためです。それが 80% は必要だというのが専門家らの見解と思います。

ただ、今は免疫をつけられるのは回復者 (回復しても再度陽性になるケースも多数報告があり未確定) だけなので数が全く足らず、自宅待機という方法で免疫保持状態を擬似的に作ろうとしているのだと理解しています。そのためには外出を減らして、人と人の接触率を80%減らすことが日本全国規模で急務になってきているのかもと、WHO のデータからも感じました。



参考



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